内容証明郵便の効力

内容証明郵便は、手紙の一種ですので、直ちに強制執行ができるとか、逮捕してもらえるとか、そういうことはありませんが、その利用方法や目的によって、いくつかの効果・効力が得られます。

 

① 証拠力が得られる

内容証明郵便による通知であれば、いつ誰が誰に対して、どのような内容の文面の手紙を出したのか、証明することが出来ます。

そのため、内容証明郵便であれば、相手方は「そのような主張や請求はされていない」とか、「そのような手紙は受け取っていない」という言い逃れをすることが出来ませんし、裁判でも意思表示が到達した証拠として事実認定されます。

特に、契約の解除や取消し、債権譲渡や相殺、時効の中断や援用、退職や辞任、脱会、など、意思表示の到達が重要な意味を持つ場合には有効な手段となります。

 

② 心理的なプレッシャーをかけられる

内容証明による通知というのは、上記のとおり、裁判になった場合の証拠として使用できるものでありますから、裁判や告訴を行う前の最終通告的な意味合いで使用することが大半です。

 

そして、以下の通り、普段見慣れた手紙とは大きく違う点が、いくつかあります。

配達員による手渡し配達であること

書式の規則があるために文書の体裁が整っていること

各ページのつなぎ目に契印がなされていること

郵便局の認証司による認証スタンプが押印されていること

差出人と受取人の所在や名称の記載がなされていること

 

そのため、見慣れない人に対しては、独特の威圧感によるプレッシャーを与えることが出来ます。

また、見慣れた人に対しても、受け取っていないという言い逃れが出来ませんので、その後のリスクを自覚認識させることが出来ます。

よって、多くの場合、この内容証明によって、再三の約束や督促も無視していた相手が、きちんと要求どおりの対応をしてくれたりするなど、解決に向かうことが多くあります。

 

③ 時効中断の効力が得られる

時効という制度があります。

一定の期間の経過によって、権利が発生したり消滅したりする制度です。

例えば、飲食代であれば1年で、一般的な売掛金であれば2年で、消滅時効により、請求権が消滅してしまいます。

また、当初は無権利者でも、所有の意思をもって不動産などの物的な財産を占有すると、10年または20年で、所有権を得ることが出来ます。

そのため、権利を行使するためには、時効が完成する前に、裁判その他の時効中断の措置を講じ無ければなりません。

 

もっとも、裁判を起こすとなれば、それなりの証拠の準備なども必要になりますし、弁護士の費用などの負担もありますので、相当な時間を要してしまう場合があります。

そこで、内容証明には、催告といって、一時的に時効を中断してくれる効力が与えられているのです。

ただし、この場合には、「6ヶ月間」の猶予が与えられるに過ぎませんので、その期間内に解決できない場合には、別途、訴訟の提起や仮差押・仮処分その他の法的な手続きをしなければなりませんので、ご注意下さい。

 

④ 確定日付を得られる

法律上、第三者に対抗するために、日付が重要な意味を持つ場合があります。

例えば、債権譲渡においては、二重譲渡などのリスクを回避するため、公的に譲渡通知の到達した日付の優先順位によるなどの要件が規定されています。

内容証明に付される日付というものも、公的に証明された「確定日付」として認められており、法的な効力を得ることが出来るのです。

内容証明を出すべき場合

内容証明は、手紙の一種ではありますが、将来的なトラブルの予防や裁判での証拠としての重要な意味を持ちますので、内容証明として出すべき場合・内容証明で出した方が良い場合、というものがあります。以下、出した方が望ましい場合を記載します。法律用語が出てきてちょっと難しそうだなと感じる方は、当事務所でもご質問やご依頼を受け付けておりますので、電話0995-65-7688か、こちらよりどうぞ。

 

契約解除・契約の取り消し

契約とは、原則として、当事者間の意思の合意によって成立するものでありますから、成立した以上、正当な理由なく一方的に解除することは出来ません。

ただし、相手方の債務不履行や、法定された事由によって契約を解除できる場合があります。

その場合、意思表示を伝えることになりますが、一旦は契約が成立し、法的効果が生じている以上、契約の解除や取り消しについては、後々でトラブルにならないよう、きちんと証拠に残るように、内容証明郵便によって行う方が安全です。

 

クーリングオフ

クーリングオフも契約解除の一種ですが、通常の契約解除とは異なり、法律によって期間が定められており、何らの解除理由も要りません。

(法定書面の交付を受けてから、原則8日以内に発送)

そのため、通常は、はがき1枚でも問題なく処理できてしまうことが多くあります。

ただし、業者によっては、または営業担当者によっては、「受け取っていない」「期日を過ぎていた」などと契約の有効性を主張されるケースもあるため、将来的なトラブルを生じさせないためには、証拠に残るように、きちんと内容証明郵便を利用した方が安心・安全です。

 

債権譲渡

貸金などの債権は、譲渡禁止の特約がある場合などを除き、原則として自由に譲渡することができます。

債権の譲渡そのものは、譲渡人(原債権者)と譲受人(新債権者)との間の契約によって有効に成立し、債務者の承諾は不要です。

しかしながら、債務者は、債権が譲渡されたこと、および、誰に譲渡されたのか、ということが分からないと、二重払いのリスクを負うことになります。

そこで、民法は、債権譲渡は、譲渡人から債務者に対して通知しなければ、第三者に対抗(債権譲渡の成立を主張すること)出来ないと定めています。

そのため、債権譲渡の通知は、通常、トラブル回避のため、内容証明郵便によって行われます。

 

債権放棄(債務免除)

債権放棄とは、無償で債務を免除することをいいます。

「債権」というのは「権利」の一つですので、原則として、他の利害関係者がいなければ、行使することも放棄することも、自由に行うことが出来ます。

この場合、債権者が債務者に免除する旨の意思表示をすることだけで効力が発生します。

ちなみに、一般の個人間のお金の貸し借りなどで考えると、わざわざ内容証明郵便まで使って債権放棄することは考えられません。

ただ、売掛金などで、実質的に回収不能な場合など、損金で計上するために、債権放棄する実益を持つ場合があります。

そして、税務当局に認めてもらうためには、口頭や普通郵便では、否認される可能性が高いため、証拠に残す意味でも、内容証明郵便を使用することが望ましいです。

 

時効の中断

債権は、一定の期間が経過することにより、「消滅時効」が完成となり、裁判などの法的な請求を行うことが出来なくなります。

※「法的な支払義務が免除される」のであり「消滅」するのではありません。

「消滅時効」という制度の趣旨は、「権利の上に眠る者は保護しない」という法格言に由来するものであり、一定の期間が経過して、新たに築き上げられた事実状態というもを保護しようというものです。

そのため、弁済や裁判上の請求、その他の事由によって、消滅時効は中断します。

内容証明郵便による請求は、「催告」といって、裁判などの法的手続きとは違い、あくまで一時的・暫定的なものではありますが、時効の完成を、最大で6ヶ月間延長させることが出来ます。

裁判を起こすための準備などで、時効完成まで日にちの余裕がない場合などに、内容証明郵便によって請求を行うことで、将来的に裁判を起こした場合などにも、証拠として残す必要がありますので、必ず内容証明を利用する必要があります。

 

遺留分減殺請求

 

遺留分というのは、兄弟姉妹以外の相続人に対して保障された相続の割合のことをいいます。

遺言者が他の者に全財産を贈与するなどした場合、遺留分権利者は、侵害した相手(受取人)に対して、遺留分を請求することが出来ます。

この「遺留分減殺請求権」は、相手に意思表示を伝えなければなりませんが、1年という非常に短期の消滅時効が定められております。

内容証明郵便による遺留分減殺請求の意思表示を相手が受け取らず、郵便局での留置期間の経過により差出人に還付された場合でも、「意思表示が到達した」と認めた判例がもあります。

(最高裁 平成10年6月1日判決)

そのため、この遺留分減殺請求も、内容証明によって行うことが重要であるといえます。

 

消滅時効の援用

債権は、一定の期間が経過することにより、「消滅時効」が完成となります。

法律関係の方でも、誤解されている方が多いのですが、時効は債権の消滅事由には当たりませんので、一定の期間が経過することによって自動的に消滅するものでは無いのです。

中には、如何なる期間が経過しようとも、「借りは返すのが筋」だと思う人が債務の履行を行うことまで、否定することは出来ません。

よって、時効の利益を受け、法的に支払義務を免れようとするには、「時効援用」をする必要があるのです。

 

賃貸借契約の更新拒絶

大家さんからの、賃貸借契約の更新拒絶(立ち退きの要求)については、借地借家法27条の定めにより、契約期間が満了となる日の6ヶ月上前1年以内の間に通知をしなければなりません。

※同法28条により、更新拒絶の正当事由も必要です。

この場合も、後々でトラブルにならないよう、通知したことを証拠として残す必要がありますので、内容証明郵便を使用することが重要です。

内容証明を出さない方がいい場合

内容証明は、手紙の一種ではありますが、将来的なトラブルの予防や裁判での証拠としての重要な意味を持ちますので、内容証明として出さない方が良い場合、というものがあります。

 

①相手が事実を否認しており、何らの証拠も無い場合(金銭の請求)

すでに、「借りていない」「そんなことはしてない」等と、相手が事実そのものを否認していて、裏付ける証拠も無い場合、そのような状況のままで内容証明を出しても、相手が応じる可能性は、極めて低いと言わざるを得ません。

それどころか、かえって警戒され、都合の悪い事実や証拠を隠蔽・抹消するなど、裏目に出てしまうリスクさえありますし、逆に、「事実無根で恐喝行為である」などと反論を受けてしまうリスクさえありますので、ご注意下さい。

 

②相手が任意に応じる可能性が無いと思われる場合(金銭の請求)

明らかに相手が任意に応じる可能性が無いと思われる場合も同様です。

例えば、医者に対する医療過誤の損害賠償請求などは、よほど明らかな場合を除き、カルテなどの証拠もないまま請求しても、応じてもらえる可能性は、ほとんどありません。

かえって警戒され、カルテを改ざんされる等のリスクすらあります。

最初から弁護士に依頼して、カルテの仮差押などの証拠保全手続きを優先すべきだろうと思われる事案が大半です。

 

③親しい間柄で、友好な関係を継続したい場合

どのような文面内容で書くか、ということにもよりますが、やはり、親族や親しい友人・知人、会社の同僚、取引先、などの場合には、注意が必要です。

「内容証明を送られた」ということを以て関係が悪化してしまうことは、珍しくありません。

婚約者が結婚式の延期を求めたからといって、慌てて「婚約破棄の慰謝料請求」などを行ってしまえば、単にマリッジ・ブルーで不安になっていただけかも知れないのに、そのことが原因で破談になる、というような、目に見えて明らかな事柄も決して珍しい話ではありません。

 

④相手方から確信的な詐欺を受けていたことを知った場合(金銭の請求)

例えば結婚詐欺など、相手が確信的に貴方を騙そうとしていたことを知ってしまったという場合、慌てて内容証明を出すできではありません。

詐欺というのは「暴行傷害」のような外形を伴わないため、極めて立証の困難な犯罪です。

いくら多額の金銭を渡していたとしても、相手に「本気で結婚する意思があった」等と言われてしまえば、罪に問える可能性は、ほとんどありません。

そのような場合も、まずは落ち着いて、相手が言い逃れを出来ない程度の証拠をきちんと押さえることが最優先です。

 

⑤内容証明を出しても、効果が期待できない場合

相手が倒産して夜逃げしそうな場合(金銭の請求)

夜逃げをしそうだということを知った時点では、すでに時期に遅れて、どうにもならない場合は、多くあるかもしれません。

おそらくは、差し押さえることが出来るような資産も有していないことが大半だと思います。 このような場合には、直接、相手に会って、決して喧嘩せずに、親族の連絡先や引越し先などを聞き出すことの方が大事です。

相手が無資力で協力者がいない場合(金銭の請求)

相手方が、無職、生活保護受給者、服役中、などの無資力で、親族その他、協力する者がいない場合には、決して内容証明を出しても、何らの効果も期待はできません。

もちろん、この先将来のために誓約を一筆もらっておきたい、ということが目的であれば、良いとは思います